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福岡高等裁判所宮崎支部 平成11年(行コ)9号 判決 2000年7月04日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、平成一〇年七月三日付けで控訴人に対してした平成一〇年度固定資産課税台帳登録価格に関する審査の申出を却下する旨の決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁八行目「地方税法」の後に「(平成一一年法律一五号による改正前のもの。以下特に断らない限り同じ。)」を加える。

2  原判決四頁一一行目「被告の職員は、」の後に「同年五月から六月にかけて、」を加える。

3  原判決五頁一行目「九年度」を「九年」と改める。

4  原判決五頁二行目「同年度中に地下下落」を「同年七月一日までに地価下落」と改める。

5  原判決五頁五行目「乙九」を「乙八、九」と改める。

第三争点及び当事者の主張

一  土地について固定資産課税台帳に登録された地目に誤りがあるため価格が不当なものとなっているとの不服を有する固定資産税の納税者が、基準年度に審査の申出をしないで、第二年度に審査の申出をした場合において、右不服の内容となっている事情は法三四九条二項一号所定の特別の事情に当たるといえるか。

(控訴人)

本件土地は、一部に農小屋、墓地があるものの、その余は茶畑として利用され、固定資産課税台帳上も平成七年度までは市街化区域内の畑として登録されていた。

ところが、平成八年度に宅地と評価替えされたため、控訴人が平成八年五月二八日付けで鹿児島市長に内容証明郵便で抗議したにもかかわらず、市当局は事実調査をせず、漫然と、平成九年度、同一〇年度も引き続き宅地と認定、登録した。控訴人は、基準年度である平成九年度には、右の抗議により本件土地の価格は当然是正されていると信じていたため、審査申出期間を徒過してしまったものである。

鹿児島市当局の怠慢過誤によって誤った地目の登録がされた以上、法三四九条二項一号の「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」があるといえ、法四三二条一項ただし書により第二年度である平成一〇年度においても価格是正のため審査の申出をすることができるというべきであり、かかる事情の存否を審理判断することなく本件審査申出を却下した本件決定は違法である。

(被控訴人)

控訴人の主張する事情は特別の事情に当たらないし、その他本件審査申出には特別の事情の指摘はなかったものである。

また、地目の誤認もなく、仮にあったとしても基準年度において審査の申出をすべきであった。

二  控訴人の主張する事情が特別の事情に当たる場合、本件審査申出にその旨の指摘があったといえるか。また、その指摘がなかったとして、被控訴人は控訴人に対し補正を促すべきであったか。

(控訴人)

控訴人は、本件審査申出においては、特別の事情として右に述べた事実を主張したものである。

仮にそのように見ることができないとすれば、被控訴人としては、控訴人に対し審査の申出の趣旨を釈明し、かつ評価の根拠となった事実や計算方法を了知させる措置を採るべきであったところ、そのような釈明等をしないままされた本件決定は公正を欠き違法である。

(被控訴人)

本件審査申出に際し、被控訴人の書記は申出理由の補正を促した。

三  本件決定書の様式に瑕疵はあるか。

(控訴人)

本件決定は、書面に被控訴人代表者の明示がなく、無効である。

(被控訴人)

本件決定書(甲二)には、法四三一条二項、鹿児島市税条例六四条(乙一)、鹿児島市固定資産評価審査委員会規程一三条及び一五条(乙二)に従い、作成年月日及び被控訴人の名称が記載され、かつ被控訴人の印章が押印されており、様式に何ら違法はない。

第四当裁判所の判断

一  各争点に対して判断するのに先立ち、まず、固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服申立て制度を概観しておくこととする。

1  土地及び家屋についての固定資産税の課税標準

土地及び家屋の固定資産税の課税標準については、原則として、基準年度(昭和三一年度及び昭和三三年度並びに昭和三三年度から起算して三年度または三の倍数の年度を経過したごとの年度)(法三四一条六号)に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日)(法三五九条)に所在する土地及び家屋については基準年度に係る賦課期日における価格(基準年度の価格)で固定資産課税台帳に登録されたものによることはもちろん、第二年度(法三四一条七号)及び第三年度(法三四一条八号)についても基準年度の課税標準の基礎となった価格で固定資産課税台帳に登録されたものによることになっている(法三四九条一ないし三項)。

そして、第二年度、第三年度において基準年度の価格が課税標準となる場合には、固定資産課税台帳に登録されている基準年度の価格が、第二年度、第三年度において固定資産課税台帳に登録された価格とみなされる(法四一一条二項)。

2  不服申立ての手続

固定資産税の納税者は、納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について、固定資産課税台帳に登録された事項に不服がある場合には、法四一五条一項所定の縦覧期間の初日からその末日後一〇日までの間において、文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法四三二条一項本文)。

しかし、法四一一条二項により固定資産課税台帳に登録されたものとみなされる土地または家屋の価格については、原則として審査の申出をすることができず、ただ、当該年度の賦課期日までに当該土地または家屋について法三四九条二項一号に掲げる事情(地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情)が新たに生じたため類似する土地または家屋の基準年度の価格に比準する価格によるべきであることを申し立てる場合に限り、審査の申出をすることができる(法四三二条一項ただし書)。

3  法三四九条二項一号所定の特別の事情

法三四九条二項一号にいう「その他これらに類する特別の事情」とは、同号に所定の「地目の変換、家屋の改築又は損壊」と対比して考えると、当該土地、家屋自体に由来する要因であって大幅な価値の増減をもたらすものを指し、それ以外の価格変動をもたらす事情を含まないと解される。具体的には、土地については、浸水、土砂の流入、隆起、陥没、地すべり、埋没等による区画や形質の著しい変化が特別の事情に当たると考えられる。

4  審査の申出の制限の趣旨

右のとおり、第二年度及び第三年度においては、原則として、価格の審査の申出をすることはできず、基準年度の価格が不当であっても、納税者は、基準年度における審査申出期間の徒過により不服申立てができなくなった場合には、第二年度及び第三年度においても、基準年度の価格がそのまま課税標準となることを甘受せざるを得ない。

これは、課税事務を簡素化して評価、価格決定に要する費用を節減するために、一定の期間は課税標準すなわち価格をいわば据え置くというところに制度の趣旨があるものと考えられる。本来、固定資産税は当該国定資産の有する価値に基づいて課税すべきものであるから、価格の決定は毎年行われるのが望ましいものの、徴税コストを抑えることも重要であるから、三年間に限り価格を一定に保つことにも十分な合理性があるといえ、その結果納税者が第二年度、第三年度において審査の申出をすることができなくなるのは、やむをえないことというべきである。また、基準年度においては審査の申出の機会があるほか、各年度の賦課期日までに法三四九条二項一号に掲げる事情が生じたときには第二年度、第三年度においても審査の申出をすることができるのであるから、納税者に対する手続保障もされているといえる。

二  右一を前提として、各争点について検討する。

1  争点1について

(一) 先に検討した法の趣旨に照らすと、法三四九条二項一号所定の特別の事情とは、土地についていえば、当該土地そのものに由来する要因により価値に著しい変動が新たに発生した場合を指するものと解され、本件で控訴人が主張するような基準年度の価格の決定に際して地目認定を誤った結果不当な価格となったというような事由はこれに含まれないというべきである。

また、控訴人主張の事由は、既に基準年度の賦課期日に存していたものであり、この点からしても法四三二条一項ただし書により価格について審査の申出ができる例外的な場合に当たらないことは明らかである。

(二) なお、控訴人は、本件土地の価格の誤りは、平成八年度及び基準年度である平成九年度において、鹿児島市当局が怠慢過誤によって農地である本件土地を宅地と誤認したことに起因するのであるから、そのような場合には特別の事情が存すると解するべきである旨主張する。

しかし、既に説示したところによれば、価格決定の過程における過誤が特別の事情に当たらないことは明らかである。付言すると、証拠(甲三、四の各2、原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成七年に家屋を新築したが、鹿児島市の職員は、平成八年三月二二日に現地で控訴人からも事情を聴いて調査を行い、この調査結果に基づいて、本件土地は右建物の敷地であり宅地に当たるとして価格の決定、登録がされたことが認められるので、鹿児島市当局に怠慢過誤があったとは直ちにはいえず、まして法を拡大解釈して控訴人を救済することを考慮すべきほどの瑕疵が本件決定にあるとは到底いえない。

2  争点2について

右1で述べたとおり、控訴人の主張する事由は特別の事情に当たらないから、これが本件審査申出に記載されていたとしても、結局のところ第二年度における適法な審査の申出の理由には当たらないものであったというべきである。

また、事案の概要で認定したとおり、被控訴人は控訴人に補正の意思がないことを確認したうえで本件決定をしており、手続上も瑕疵はなかったものといえる。

3  争点3について

法四三一条二項、鹿児島市税条例(乙一)六四条、鹿児島市固定資産評価審査委員会規程(乙二)一三条一項、一五条一項によれば、審査の決定書には被控訴人の記名押印があれば足り、被控訴人代表者の明示は必要とされていない(ちなみに、平成一一年法律一五号による改正後の法四三三条一一項は審査の決定について行政不服審査法四一条一項を準用しているところ、これによれば、やはり決定書には被控訴人の記名押印があれば足りることになる。)。

本件決定書には、被控訴人の名称が記載され、かつ被控訴人の印章が押印されているから、作成様式に違法は認められない。

三  以上のとおり、本件決定に違法な点があるとは認められず、その取消しを求める控訴人の請求には理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 海保寛 裁判官 多見谷寿郎 裁判官 岡田健)

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